
「東京ゲームショウ2025が出来るまで~ブース(コンセプト)編~」
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今回は弊社がTGS2025の会場に出展するブースのおはなしです。
ブースとは、TGSの会場の一区間を借り、そこへアピールしたいゲームや宣伝したい商品を置いたり、プレイして欲しい試遊台などを設置する展示スペースのことです。
ここではブースについてではありますが、そのデザインを決めていく際に前提となる「コンセプト」がどのように変遷し決定されたかを、拙筆ながら備忘録的に記載しようかと思います。

今から数ヶ月前、昨年のTGS2024出展段階で次回も続けて出展することは想定されていたので、そろそろ今年も動きがあるかな、とぼんやり思っていたところ部長より企画始動のお報せをいただきました。
まずはその時点での出展の意図や狙い、大枠のコンセプトについて共有があり、そこから具体的なブースのデザインを起こしていく作業に入ります。
さて、はじめに伝えられた本年のビジュアルのコンセプトは”サイコロ”でした。
正方形が6つ組み合わさった立方体で、各面に点が打たれているボードゲームなどに用いられるあれです。

なるほどサイコロ…と聞いた時自分の頭には、直近まで視聴していた映画の影響もあり、「双六」「半か丁か」「チンチロリン」「博打」「よござんすか」…などどちらかというとニホンゴの、少し野暮ったい、畳と黴のニオイのする場末で腹巻き姿の男衆が脂汗を額に浮かべながらくわえタバコで睨み合っている…的な想念が浮かんでおりました。
無論これは個人由来の、非道く偏ったイメージですので大多数普遍的な心象とは微塵も想っておりません。
(弊社の社名である「ワンオアエイト」も、「一か八か」ではあるので、一概に誤りでは無いのではありますが)

これでは余りにも最先端のゲームショウといった舞台には場違いですので、もっと固定観念から脱却すべく一旦「賽子(サイコロ)」を「ダイス」と言い換えてみることにしました。
シンプルに横文字に言い換えただけですが、不思議なことに部屋に充満していた紫煙は換気され、怒声は遠のき、一気に油性分が抜けた軽やかな感じがしてまいります。
光景的には、薄暗くて手狭なあばら家から、清潔で調光された照明輝く大広間、頭に浮かんでくるのはカジノとかミラーボールとかバーボンとかラスベガスとかウォッシュレットとかいった洋風なワードたちでしょうか。
ダイス自体の色彩も、血糊が付着してくすんだ骨色なぞではなく、なんだかクリアブルーとかサファイアグリーンの、光を透過するような清々しい姿が想起されてきました。

…とまぁ、後者も大概に個人的妄執を含んだ観念的なものではありますが、要は一つの言葉から表出するイメージや意味合い、縛りや骨格といったものは、少し言い換えただけでも様相がガラッと変わり、譬え同じものを指していても全く異なった含蓄になる可能性があるため、慎重に推敲していく必要があるということです。
特に会社や組織を象徴するようなプロジェクトで、不特定多数のお客様/来場者を対象とする際にはなおさら偏向なイメージは避けなければなりません。
(一応弁明しておきますが、サイコロやダイスにネガティブなイメージがあるというわけでは決してございません。あくまで今回の弊社のテーマとしてはもう少し解釈の幅を拡大したほうがよいのでは…というだけのおはなしです。サイコロ界隈の御仁たちは何卒誤解なきよう)

閑話休題、メインのおはなしに戻りますが…結果的に今回は「サイコロ」というワードは採択されませんでした。
その理由は先程まで書き連ねていた雑文のようなイメージ…からでは重々ありませんで、次のような思案の流れからであります。
まず「サイコロ」ですが、現代でのエンタメの筆頭であり、デジタル技術の先端をも担うゲーム会社が、古来から親しまれてきた原始的な遊び/ゲームの道具をモチーフにすることはなにか原点回帰、温故知新として筋が通っており、むしろ相性がよいまでありますし、そこからブースのデザインを考えろ、と言われればそういった遊びの概念を足がかりにして、それらしき雰囲気のものは出来上がるでしょう。
ただこれだけですと、直球というか、いかにもというか、狭い範囲での「ゲーム」「遊戯」のような意味合いを醸し出すのには適していても、それ以上の広がりや、来場者が介入する余白を作り出すには少しばかり深度が浅いようにも感じました。
先述のように、具体的なモノそれ自体を指定してしまうと、どうしても想像されるイメージも具体的なものに引きずられ、自由な発想の足枷となり視野狭窄に陥るおそれもございます。
もっとも、固着したワードを据え置いたとしても、そこから新鮮で驚くような未見のイメージを作り上げるのが一流のお仕事であり、そこまでの発想を持ち合わせていなかった…と云われれまそれまででありますが。

そこで上記を踏まえ、何度かプロジェクトメンバーで談義を行ううちに、サイコロを「キューブ」というワードに置き換えることになりました(サイコロからイカしたアイデアがひねり出せなかったわけでは…決してございません)。
やはり集合知とは良きもので、一人二人では出てこないような切り拓き、啓蒙があるものです。
和訳ですと「立方体」となりますが、これをカタカナ語で表記するだけでも先のものよりも物質感が薄れ、ともすれば形而上的な響きまで聴こえてくるとかこないとか(これであの血走った目つきの男衆は登場しなくて済みそうです)。
このようにして、かつての「サイコロ」はより抽象度の高いワードと昇華され、それが所有する枠組みが曖昧になればなるほど、直接的には関係なくとも、それらしい周縁の言葉を置いておけば、なぜか意味深に聞こえてきたりするので莫迦にできません(逆の作用として、ちょっと斜に構えたイケ好かないニオイもしなくはないですが…)。
例として「キューブ」に置換されたことで、コンセプトに採用できそうなワードを思いつくままにいくつか並べてみます。
箱、部屋、ドット、ピクセル、ボクセル、モジュール、グリッド、多面体、展開図、連続性、積み重ね…などなど(サイコロの時点でも出てきそうな単語もあるだろう、というツッコミはここでは野暮です)。
ドットやピクセル、ボクセルなんかはゲームではよく目にすることが多いので暗喩としても実に相性がよいと云えますね。

ここに挙がってきたこれらのワードから、今回の出展のコンセプトに使えそうなものを選抜していくわけですが、結果テーマとして決定されたものを述べさせていただくと、「ホワイトキューブ」、「多面体」、「展開図」といったものに収まった次第です。
「ホワイトキューブ」は美術業界用語での展示空間のことで、ブースのデザインの具体的な骨格のイメージとして採用されました。こちらは今回のTGS出展に際して、弊社を知っていただくという内容を汲み取った意味合いからになります。
「展開図」と「多面体」は、これと併せて決められた「挑戦×展開×多面性」の後ろ2つのテーマと絡めております。
※挑戦というワードもありますが、詳細は前々回の「東京ゲームショウ2025が出来るまで~ディレクター編~」参照のこと
「展開図」は、キューブ/立方体を紙などの平面素材で組み立てる際に描く線画の図のことです。この「展開」というワードが、組織と生み出したものが将来的に発展し、広がっていくというダブルミーニングから採用されました。
「多面体」も同じく二重の意味としてからですが、六面で構成された立方体を多面と言い換え、これを一方一面ではなく、いろいろなことに視野を向け、携わっていく組織の意味合いとして接続したかたちになります(少し違う意味の語彙になりますが、「多様性」とも少し親和性がありますね)。

このような顛末で、当初の「サイコロ」は「キューブ」となり、「キューブ」は「展示空間」「展開図」「多面体」というコンセプトとしての体裁を得たわけでありました。
ブースのデザインを任された身としては、これらのワードを如何に実際の空間、構造物に落とし込めるか…なのですが、それは実際の会場でご自身の眼で確かめていただければと思います。
そもそも当事者としてもこれを記している現時点では、このような過程を経て採択された言葉から立ち上がった空間がどのようなものに演出され現前するのか全く予想もつかず、期待と不安の胸中であります。
残る数週間の間、より良いブースにできるよう精進してまいりますので、興味を持っていただいた方は是非会場にてお立ち寄りいただければこれ幸いです。

(本当はブースデザインについて、平面上に描かれたものと三次元的な構造物とは全く異なる思考をしなければならないとか、空間に対しての人の在り方やら、どのような業者の方々が我々のプランを実現化してくれるのか…といった仕事の流儀的なことを存分に語りたかったのですが、紙幅を大幅に乱文に使用してしまったので惜しいかな、今回はここまでということに…この拙筆で一人でも多くの方に会場に足を運んでいただければ本望でございます)